サルでもわかるデリバティブサルでもわかるデリバティブ(98年当時のもののリバイバル版)<第1回>噂のヘッジ・ファンドて何だろう? 前回まで、「当世マンハッタン事情」なる拙文を掲載させていただきましたところ、関ネットワークス社長から「是非とも続編を」との強い要請を頂戴しました。 理由を伺ったところ、「読者の評判がすこぶる良く、打ち切りは忍びないからだ」とのことです。お受けするかどうか随分と迷ったのですが、おいらの信条は、「豚もおだてりゃ木に登る」であります。 したがって、恥の上塗りを覚悟の上で、今回から「サルでもわかるデリバティブ」というタイトルで考えてみることにしました。 <押さえどころその1>ヘッジ・ファンドの肝の部分は、銀行馬券 銀行馬券というのが、ある。ご存じない読者においらが一言説明を加えるならば、絶対に本命が入る(当たる)馬券のことで、当然ながら配当も極めて低い。 銀行に預金をするような安全な馬券だから命名されたゆえんである(しかし、最近は銀行がよくつぶれるので銀行馬券とは言わなくなったらしい?)。 実は、ヘッジ・ファンドは、この銀行馬券と同じように絶対にあたる本命を見つけ出し、その馬に賭けると思っていただくとよいと思う。 では、どうやって本命馬券を見つけるか? 実は、ここが難しいのだが、一言でいうと「相場が上がっても下がっても損をしない取引をする」ように仕組みを作るのである。 普通、おいらが相場をはるのであれば、将来の相場が上がると思えば買い、下がると思えば売る。したがって、相場の読みがはずれれば損をすることになる(単純明快である)。しかし、世の中は面白いもので、読みがはずれても損をしない方法を考えようとする人間がいるものである。 種明かしをしてしまえば、そこで生まれたのが保険である(この保険のことをおいらの世界ではヘッジと呼んでいる。因みにこれが理由でヘッジ・ファンドと命名。ま、ホントはギャンブル・ファンドだけどね)。 では、ヘッジの仕組みは、一体どうなっているのだろうか。簡単に言うと、売りと買いとを同時に工夫しながら行い、相場がどっちに転んでも、損をしない(儲かる)ようにするのである。 みなさんは、おっしゃるに違いない。売りと買いとを同時に行えば、差し引きゼロになるため、何もしない計算になるのではないかと。 ごもっとも。そこで、プロの出番となる。実は、ここがミソなのだが、この売りと買いとは、一見、相関関係のない売りと買いとを組み合わせているのである。 例えば、最近のヘッジ・ファンドが日本マーケットで行っていたのが、「ドル買いの日本株売り」というポジションだと言われていた(ドルが上がればドル買いで儲かり、ドルが下がっても、それにつられて日本株が下落していれば得をするというのが一例。 実際は、これにデリバティブ(先物)等を組み合わせて、非常に複雑な仕組みとしている)。 当然、問題は何を売って何を買うかであり、また、過去の大量のデータをどうやってコンピュータで分析したり、難しい数式を駆使して理論値を算出するかというのが、ヘッジ・ファンドのノウハウなのだが、マスコミで有名になったLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)は、ノーベル賞を受賞した経済学者を二人も採用して「ウオール街の天才集団」と呼ばれ儲け続けていたのである。 こうやって、彼らが見つけたのが銀行馬券なのである。 <押さえどころその2>レバレッジとは少ない元手で大きな博打を打つこと ところが、残念なことに銀行馬券にも欠点が一つだけある。それは、利ざや(配当)が少ないことだ。特に人気レースで、実力も人気も集中している場合、寂しいことに払戻金(配当金)は雀の涙ほどである。 では、どうするのか? 1万円で払戻金が1万100円であれば、掛け金を多くしてしまうのである。100億円掛ければ、101億円の払戻金になり、1億円の儲けとなるのである。 そこで、ヘッジ・ファンドでは、この掛け金を大きくするために、レバレッジ(梃子の意味)を利用することにしたのである。 レバレッジとは、簡単に言えば、少ない元手で大きな博打を打つことである。まず、出資者から元手を募る。次に、その元手(出資金)を担保にして、銀行から多額の借金をする。更に、その多額の借金をデリバティブの保証金にして、その金額の何倍もの金額のデリバティブを行う。 つまり、ヘッジ・ファンドは、そうやって合法的な範囲内で多額の金額を銀行馬券に掛けていたのである。 こうやって、高額馬券を買い続けた結果、彼らの利回りが、例えば今は亡きLTCMの場合、94年29%、95年43%、96年41%、97年17%であったのも成る程とうなずけるのである。 <押さえどころその3>銀行馬券もはずれる しかし、馬券は、はずれることがある。そして、はずれたのである。例えば、過去100年間に1回のイレギュラーな事故とでも言おうか、あらゆる局面を想定したノーベル経済学賞のコンピュータの予想範囲を事実はいとも簡単に裏切ってしまったのである。うーむ。 <押さえどころその4>金儲けを考える奴は不滅である 以上に伴い、ヘッジ・ファンドの規制がいろいろと言われてきたが、規制すればするで、また違ったしかし中身は同じようなアイデアを考える人間が必ず出てくるものだとおいらは思うのである。 ま、金儲けを考える奴は不滅であるのでしょうか。 以上、どうもわかりにくいヘッジ・ファンドの肝の部分をやさしくしてみたつもりですが、実際にはもっと複雑怪奇な話しが一杯あります。 世の中には、特に最近は、金融の世界で分かりにくいことが多いため、次回もみなさんと一緒にこのおどろおどろしい金融の世界について、おいらも散策してみたいと思うのであります。 (以下、続く) |